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運動感覚と性格の相関関係 ― 子どもの「できた」が心を育てる理由

  • 8月10日
  • 読了時間: 10分

「うちの子、運動が得意になったら、もっと自信を持てるようになるのかな」


「運動神経がいい子は、なぜか友達も多くて、人にも優しい気がする」


お子さまを見ていて、そんなふうに感じたことはありませんか。


実はこの感覚、単なる思い込みではありません。心理学や脳科学、発達科学の研究からも、「運動感覚」と「性格形成」には深い関わりがあることが少しずつ明らかになってきています。


この記事では、性格がどのように形づくられるのかという基本から、子ども時代の運動経験が持つ特別な意味、そして「できない」という思い込みを「できる」に変えていくためのヒントまで、できるだけわかりやすく、優しい言葉で解説していきます。


少し長い記事になりますが、お子さまの成長を考えるうえでのお役に立てれば嬉しいです。




1. 性格は「生まれつき」だけでは決まらない ― 遺伝と環境のかけ算


性格がどのようにできあがるのかについては、昔から「生まれ持った気質(氏)」と「育った環境(育ち)」のどちらが大きいのか、長く議論が続けられてきました。


この問いに答えるために、心理学の世界では「双生児法」という研究手法がよく使われます。


まったく同じ遺伝情報を持つ一卵性双生児と、兄弟姉妹程度の遺伝的類似度しか持たない二卵性双生児を比較し、どちらのペアがより性格が似ているかを調べる方法です。同じ家庭環境で育った双子であれば、環境の影響はほぼ同じはずなので、一卵性のほうがより似ていれば、その差は遺伝の影響だと考えることができます。


こうした研究の積み重ねから、性格を含めた人間の心の働きは、大まかに見て遺伝と環境がおよそ半分ずつ影響しているという理解が、行動遺伝学の分野では広く共有されています。


さらに養子研究(生物学的な親と養親のどちらに性格が似るかを調べる研究)からは、協調性や思いやりといった対人的な側面ほど、育った家庭環境の影響を強く受けやすいこともわかってきています。


つまり、性格は生まれ持った素質だけで決まる「固定されたもの」ではなく、その後の経験によって形づくられていく部分が大きいということです。運動が得意か苦手かという要素も、この「環境」の一部として、性格形成に静かに、しかし確実に影響を与えていると考えられます。


2. 「できない」がつくる、無意識の劣等感


子どもは、大人が思う以上に、日常のなかで自分と周りを比べています。


かけっこで最後になった、跳び箱が跳べなかった、球技でうまくボールを扱えなかった――そうした経験は、本人が言葉で表現する前に、身体の感覚として「自分はまわりより劣っている」という感覚を刻み込んでしまうことがあります。


これは、客観的な優劣の話ではなく、あくまで本人が主観的に感じてしまう心理的な現象です。


心理学者アルフレッド・アドラーは、劣等感そのものは誰もが持つごく自然な感情であり、それ自体は問題ではないと述べています。むしろ問題になるのは、その劣等感がうまく処理されず、「どうせ自分には無理だ」という自己否定や、挑戦することそのものへの回避につながってしまう場合です。


運動の場面は、体の動きという目に見える形で「できる・できない」がはっきり表れるため、この感覚がとりわけ表面化しやすい場だと言えるでしょう。


だからこそ、失敗そのものよりも、失敗をどう受け止め、次にどうつなげるかという周囲の関わり方が、とても大切になってきます。


3. 小学生期は、運動が人格形成の「軸」になりやすい特別な時期


大人になれば、たとえ運動が苦手でも、仕事や趣味など多様な形で自分の得意なことを見つけ、「運動ができない自分」を相対化することができます。


しかし、小学生の時期は少し事情が異なります。学校生活の多くの時間が体育や休み時間の外遊びに割かれ、「運動ができるかどうか」が友人関係やクラスでの立ち位置に直結しやすいのです。


さらに発達の観点からも、この時期には見逃せない特徴があります。


アメリカの医学者スキャモンが示した「発育・発達曲線」によると、運動能力に深く関わる神経系は、5歳頃までに成人の約80%、12歳頃までにほぼ100%近くまで発達するとされています。


この神経系が著しく発達する9〜12歳頃を中心とした時期は「ゴールデンエイジ」と呼ばれ、多様な動きを経験することで神経回路が効率よく形成される、運動能力を伸ばすうえで特別な時期だと考えられています。


一度形成された神経回路は簡単には失われないため、この時期に多様な「できた」という成功体験を積むことは、運動能力そのものだけでなく、「自分はやればできる」という自己効力感の土台づくりにも直結します。


反対に、この大切な時期に失敗体験ばかりが積み重なってしまうと、後述するように、その後の性格傾向にまで長く影響を及ぼすリスクがあります。小学生期の運動経験が「人格形成の軸になりやすい」と言われるのは、こうした発達段階の特性と、学校生活における運動の位置づけの両方が重なっているためなのです。


4. 体の感覚がつながりをつくる ― ミラーニューロンと対人感覚


脳科学の分野では、興味深い神経細胞の存在が知られています。


「ミラーニューロン」と呼ばれるこの神経細胞群は、自分自身が体を動かすときだけでなく、他人が同じような動きをしているのを見ているときにも反応することが、イタリアの研究者ジャコモ・リッツォラッティらのサルを用いた研究によって発見されました。人間においても、同様の働きをする脳領域の存在が示唆されています。


この仕組みは、単に他者の動きを理解するだけでなく、他者の感情や痛みを「自分ごと」として感じ取る、共感の働きの土台のひとつになっていると考えられています。


誰かが指をぶつけて痛そうにしている場面を見て、思わず自分まで顔をしかめてしまう――あの感覚も、この神経の働きと関係していると考えられています。


ここから導かれるのは、豊かな運動経験を通じて自分自身の身体感覚が育っている人ほど、他者の動きや表情の微細な変化を「自分の経験」に照らして読み取りやすく、結果として対人的な共感や信頼関係を築きやすくなるのではないか、という仮説です。


ただし、この分野の研究はまだ発展途上であり、運動能力の高さが共感力の高さを単純に保証するわけではありません。身体感覚を通じたコミュニケーションのしやすさが、対人関係を築くひとつの土台になりうる、という理解にとどめておくのが誠実な姿勢だと言えるでしょう。


5. 刷り込まれた失敗が生む「無気力」という落とし穴


小学生期の運動経験でもっとも注意したいのが、失敗体験の積み重ねによって引き起こされる無気力感です。心理学ではこの現象を「学習性無力感」と呼びます。


アメリカの心理学者マーティン・セリグマンらは、逃れられない不快な状況を繰り返し経験した動物が、やがて逃げられる状況になっても行動を起こさなくなるという実験結果を報告し、この概念を確立しました。


人間の場合も同じような仕組みが働きます。何度挑戦してもうまくいかない経験が続くと、「自分にはどうせできない」と学習してしまい、挑戦すること自体を避けるようになっていくのです。


厄介なのは、この思い込みが運動の場面だけにとどまらないという点です。


「自分はできない人間だ」という自己認識は、勉強や新しい習い事、将来の進路選択など、人生のさまざまな場面での挑戦意欲にまで波及することがあります。子ども時代の「運動が苦手」という経験が、そのまま大人になってからの「新しいことに挑戦するのが怖い」という性格傾向に結びついているケースは、決して珍しくありません。


6. もう一歩踏み出す「覚悟」を、どう育むか


では、一度刷り込まれてしまった「できない」という思い込みは、もう変えられないのでしょうか。決してそうではありません。


心理学者アルバート・バンデューラは、「自分にはこれができる」という感覚(自己効力感)が、実際の挑戦行動を大きく左右することを示しました。そしてこの自己効力感を高める最も確実な方法のひとつが、小さくても構わないので、実際に「できた」という成功体験を積み重ねることだとされています。


人が変わるきっかけは、多くの場合「変わりたい」「もっと強くなりたい」という内側から生まれる小さな決意にあります。


ただ、現代はその「きっかけ」自体が生まれにくい環境にあるとも言えます。失敗を避けやすい選択肢が身の回りに増え、あえて苦手なことに挑戦しなくても、日常生活が成り立ってしまうからです。


だからこそ、意識的に「一歩踏み出す機会」をつくり、それを安心して挑戦できる環境のなかで後押ししてもらえることが、これまで以上に大切になっています。


まとめ


ここまで見てきたように、運動感覚と性格は、決して切り離せない関係にあります。


  • 性格は遺伝と環境の両方によって形づくられ、運動経験は「環境」の重要な一部である

  • 小学生期は神経系が著しく発達する特別な時期であり、この時期の運動経験が自己効力感の土台をつくりやすい

  • 身体感覚の豊かさは、対人的な共感や信頼関係を築く土台のひとつになりうる

  • 失敗体験の積み重ねは学習性無力感を招き、挑戦意欲そのものを奪ってしまう危険がある

  • 小さな成功体験の積み重ねこそが、「できない」を「できる」に変える一歩になる


お子さまの「できた」という笑顔は、運動能力の向上だけでなく、その先の人生を支える自己効力感や、人とのつながりを築く力の土台にもなっていきます。


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ここまでお読みいただき、ありがとうございました。「うちの子にも、小さな成功体験を積ませてあげたい」「一歩踏み出すきっかけをつくってあげたい」と感じていただけましたら、ぜひ一度、私たちの無料体験レッスンにお越しください。

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参考文献・データ出典

  1. アルフレッド・アドラー 個人心理学における劣等感の理論(Individual Psychology)

  2. Scammon, R.E. (1930). The Measurement of the Body in Childhood. In Harris, J.A. et al. (Eds.), The Measurement of Man. University of Minnesota Press. ―発育・発達曲線(神経型の発達曲線)に関する古典的研究

  3. 文部科学省(2011)「幼児期運動指針」および平成20年度学習指導要領改訂における「多様な動きをつくる運動」の位置づけ

  4. Rizzolatti, G., Fadiga, L., Gallese, V., & Fogassi, L. (1996). Premotor cortex and the recognition of motor actions. Cognitive Brain Research, 3(2), 131-141. ―ミラーニューロンの発見に関する基礎研究

  5. Seligman, M.E.P., & Maier, S.F. (1967). Failure to escape traumatic shock. Journal of Experimental Psychology, 74(1), 1-9. ―学習性無力感(Learned Helplessness)の基礎研究

  6. Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191-215. ―自己効力感理論の基礎研究

  7. 行動遺伝学における双生児法・養子研究に基づく性格の遺伝率(概ね遺伝要因と環境要因が同程度とされる知見)

本記事は心理学・脳科学・発達科学分野の一般的な知見をもとに構成した解説記事であり、個人の性格や能力を診断・断定するものではありません。運動能力と共感力・対人能力の関係についての一部の仮説は、現時点では研究が発展途上であることにご留意ください。


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